VSCodeと新拡張機能によるSTM32開発環境の構築 (2025年5月時点)
はじめに
本記事では、STMicroelectronicsが提供するVSCode向け拡張機能「STM32Cube for Visual Studio Code Core」とそれに依存する拡張機能群を用いて、CubeIDEを使用しないSTM32開発環境を構築する手順を掲載しています。
LinuxおよびWindowsで動作確認しています。macOSについては未検証です。
内容は2025年5月18日時点の情報に基づいています。
旧拡張機能の問題点
2023年に公開された「STM32Cube for Visual Studio Code」(以下、旧拡張機能)には、以下のような問題がありました。
- すでに非推奨となっている別の拡張機能に依存している
- STM32CubeCLTへの依存に依存している
- プロジェクトごとに各種ツールチェインのバージョンを固定できない
- gcc, gdb, cmake, …
- PATH環境変数が汚染されることにより、
cmake
やninja
などのパスが上書きされてしまう
- プロジェクトごとに各種ツールチェインのバージョンを固定できない
特に、STM32CubeCLTの「行儀の悪さ」は非常に厄介なものでした。
新拡張機能による改善点
2025年5月、STMicroelectronicsが新たに公開した「STM32Cube for Visual Studio Code Core」(以下、新拡張機能)とそれに依存した拡張機能群によるエコシステムにより、以下のような改善がなされました。
- CubeCLTが不要に
- プロジェクト単位での各種ツールチェインのバージョン固定が可能に
これにより、クリーンでモダンな、CubeIDEの代替として使うのに十分な開発環境の構築が可能になりました。
公式のドキュメントが見つからなかったため、手探りで環境構築から使い方までを調べたものを以下にまとめておきます。
1. 事前準備
1.1 Windowsの場合
2025/05/19更新
下記URLからSTLink Driverをダウンロードしインストールします。
https://www.st.com/ja/development-tools/stsw-link009.html
1.2 Linuxの場合
1.2.1 STLink用のudevルールの追加
STLinkにroot権限なしでアクセスするためには、udevルールの追加が必要です。
以下のリポジトリをcloneし、*.udev
ファイルを /etc/udev/rules.d/
ディレクトリに全てコピーしてください。
https://github.com/eyr1n/stlink-udev-rules
2025/05/19更新
以下のURLよりSTLink Upgradeをダウンロードし、stsw-link007/AllPlatforms/StlinkRulesFilesForLinux/
以下にある readme.txt
に従ってudevルールをインストールしてください。
https://www.st.com/en/development-tools/stsw-link007.html
1.2.2 libncurses5のインストール
新拡張機能に含まれる arm-none-eabi-gdb
は、libncurses5に依存しています。本記事ではUbuntu 22.04, 24.04におけるlibncurses5の導入方法について解説します。そのほかのディストリビューションについては、がんばってください。
Ubuntu 22.04の場合
sudo apt install libncurses5
Ubuntu 24.04の場合
libncurses5は公式リポジトリから削除されているため、Ubuntu 22.04向けのパッケージを手動でダウンロードし、以下のコマンドでインストールします。
sudo dpkg -i libtinfo5_*.deb libncurses5_*.deb
2. 必要なソフトウェアのインストール
2.1 STM32CubeMXのインストール
STM32CubeMXは、STM32 HAL(or LL) Driverに基づくコード生成ツールです。以下のURLから、使用しているOSに対応するインストーラをダウンロードしてください。
https://www.st.com/ja/development-tools/stm32cubemx.html
2.2 STM32関連拡張機能
以下の2つの拡張機能をインストールしてください。
STMicroelectronics.stm32cube-ide-bundles-manager
- gcc, gdb, cmakeなどソフトウェアバンドルを管理するための拡張機能
STMicroelectronics.stm32cube-ide-debug-stlink-gdbserver
- VSCodeからSTLinkを使用したデバッグを可能にする拡張機能
これらを導入することで、必要なツールチェインとその他必要な拡張機能も自動的に導入されます。
2.3 C/C++拡張機能
(入っていない人はおそらくいないと思いますが)Microsoftが提供する「C/C++」拡張機能もインストールしておくことをおすすめします。これによりコード補完などの機能が有効になります。
3. プロジェクトの生成と初期設定
3.1 STM32CubeMXでのプロジェクト生成
- CubeMXを起動し、使用するMCUまたはBoardを選択します
- 必要な設定を行い、「Project Manager」->「Project」->「Project Settings」->「Toolchain / IDE」を「CMake」に設定します
- 「GENERATE CODE」ボタンを押してプロジェクトを生成します
3.2 VSCodeでプロジェクトを開く
VSCodeで生成されたプロジェクトフォルダを開くと、画面右下に画像のようなダイアログが表示されますので、「Yes」を選択してください。
万一このダイアログを閉じてしまった場合は、「STM32Cube」パネルから「Setup STM32 project(s)」を選び、対象の「Board / Device」を選択して右下の「Save and close」を押せば同じ結果が得られます。
3.3 初回ビルドの実行
VSCode左下の「ビルド」ボタンを押して、CMakeによる初回ビルドを実行します。これにより実行ファイルが生成されます。
3.4 デバッグ設定の追加
.vscode/launch.json
にデバッグ構成を記述します。
「実行とデバッグ」パネルから launch.json
を作成し、「STM32Cube: STLink GDB Server」を選択します。
以下の項目を configurations
内に追記することで、デバッグ実行時にビルドも同時に行われるようになります。
"preBuild": "${command:st-stm32-ide-debug-launch.build}"
この設定により、常に最新のビルド結果でデバッグを開始できるようになります。
4. 動作確認
F5
キーを押してデバッグを実行し、STLink経由でターゲットデバイスに書き込み・接続できることを確認してください。デバッガが正常に起動し、ブレークポイントで停止すれば正常に動作していると思われます。
おわりに
VSCodeと新拡張機能を使用することで、CubeIDEに依存せずに、クリーンかつモダンなSTM32開発環境を構築することができました。CMakeによるプロジェクト構成のため、外部ライブラリの作成や導入も非常に楽になるかと思います。
今後、追加で判明したことなどあれば更新していくかも。